《ツボのおはなし》       

   

  数千年に及ぶ東洋医学の長い伝統に支えられたツボ療法は、家庭で手軽にできるこ 

 とから、日ごろの健康づくりや、不快な症状の改善のために活用する人が増えていま 

 す。現在では日本、中国、韓国などアジア圏だけでなく、欧米各国の人々の間にも普         

 及の輪が広がっています。

  しかし、ツボ(経穴)の名称や効能は同じでも、その位置が国によって異なるも

 も多く、長年、専門家の間で問題となってきました。そこでより国際的な統一基準を

 策定しようと各国の研究者による協議が重ねられ、ようやく2008年にWHO(世

 界保健機関)から「標準経穴部位」が発表されました。これにより、ツボ療法はさら

 なる世界的な普及に向けて新たな一歩を踏み出したといえるでしょう。

 ツボ療法とは何か

 《ツボの効果》

  東洋医学では、人間の体の中には心身機能を正常に保ち続けるためのエネルギー(

 気)があって、それが絶えず循環していると考えられています。このエネルギー(気

 )が循環する道すじは「経絡(けいらく)」と呼ばれています。

 それぞれの経絡は人間が生命を維持していくうえで大切な六臓六腑に対応して、肺経(はいけい)、大腸経(だいちょうけい)、脾経(ひけい)、胃経(いけい)、心経(しんけい)、小腸経(しようちょうけい)、腎経(じんけい)、膀胱経(ぼうこうけい)、肝経(かんけい)、胆経(たんけい)、心包経(しんぽうけい)、三焦経(さんしょうけい)があり、「正経(せいけい)十二経」と総称されます。これに体の中心を通る任脈(にんみゃく)と督脈(と  

 くみゃく)を合わせたものは「正経十四経」と呼ばれ、健康づくりに役立てられてい

 ます。

  正経十二経の見方は、体の前面に出てくる腑に関係する経絡を陽明(ようめい)、

 臓に関係する経絡を太陰(たいいん)といいます。体の側面に出てくる腑に関係する

 経絡は少陽(しょうよう)、臓に関係する経絡は厥陰(けついん)、背面に出てくる

 腑に関係する経絡は太陽(たいよう)、臓に関係する経絡を少陰(しょういん)とい

 います。

  ツボ療法に用いられるツボは、これら経絡という道すじに並んでいる体の表面のポ

 イントで、正式には「経穴(ツボ)」と呼ばれています。        

※六臓六腑

 六臓・・・肝、心、脾、肺、腎、心包

 六腑・・・胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦

  心包と三焦は形のない臓腑で、心包は心臓を包む膜で、       

  三焦は上焦(じょうしょう)、中焦(ちゅうしょう)、  

  下焦(げしょう)に分かれ、臓器と臓器の隙間を指しま

  す。

 《理論と経験に基づいたツボ療法》

  ツボ療法はしばしば「神秘的」といわれます。それは「一見、なんの関係もなさ 

 そうな体の表面への刺激が、体の内部の機能調整に驚くほど効く」からです。

  しかし、これは東洋医学の長年にわたる研究と理論に基づくもので、何も不思議な 

 ことではりません。体の表面のどの部分とどの臓腑の機能が関係しているのか、また

 ツボ同士がどうかかわっているのかを体験的にまとめ上げた「臓腑経絡による経穴理

 論」のもとで治療が進められ、その効果が臨床例として確かめられているのです。そ

 の結果、ツボ療法は、内臓や組織にはっきりした病変はないものの、症状として苦痛

 があるような場合や、半健康でありながらどこか症状が思わしくないという場合など

 に、とくに効果があります。また、季節の変わり目や天候の崩れ、心身のバランスの

 崩れから起こる症状にも効果があります。一方、感染症や急性疾患を完治させる効果

 はあまり期待できませんが、症状をやわらげるのには役立ちます。 

 《正経十四経と経穴》

  東洋医学の経絡理論では、エネルギー(気)は「経絡」という通り道を通って体の

 の中を循環しています。「経」は縦に流れているルートのことで、「絡」は横に連絡

 しているルートのことを指します。ちょうど体全体にクモの巣を張りめぐらしたよう

 に、経絡が縦と横に入り組んで、その中をエネルギー(気)が上下左右のバランスを

 取りながら流れていると考えればよいでしょう。

  正経十二経

   ①手の太陰肺経(肺の臓に関係) 

   ②手の陽明大腸経(大腸の腑に関係) 

   ③足の陽明胃経(胃の腑に関係)

   ④足の太陰脾経(脾の臓に関係)

   ⑤手の少陰心経(心の臓に関係)

   ⑥手の太陽小腸経(小腸の腑に関係)

   ⑦足の太陽膀胱経(膀胱の腑に関係)

   ⑧足の少陰腎経(腎の臓に関係)

   ⑨手の厥陰心包経(心包の臓に関係)

   ⑩手の少陽三焦経(三焦の腑に関係)

   ⑪足の少陽胆経(胆の腑に関係)

   ⑫足の厥陰肝経(肝の臓に関係

   奇 経

    ⑬督脈 

    ⑭任脈

  正経十二経に督脈、任脈を加えたものが「正経十四経」です。この正経十四経の経

 絡に点在している重要なポイントがツボです。ツボは専門用語では経穴といい、経穴

 は経絡にあるものが正穴(せいけつ)でその数は361穴、経絡上から外れたとこ

 にあるが、治療効果の高いツボを経外穴(奇穴・新穴)として分けています。奇穴の 

 数はWHO(世界保健機関)で標準化されているものが48穴あります。

  練功十八法で使用するツボは、後段・益気功の動作目的に合わせて、正経十四経か

 ら28穴、経外穴から7穴の合計35穴を使用しています。 

  内臓や体のどこかに異常や疾患がある場合、その場所と関係のある体の表面に特に

 強い反応が表れて、痛みやこり、冷感、温感、知覚過敏といった反応が起こります。

 体表上でその反応のもっとも起こりやすい場所がツボです。

  昔から「病は気から」という言葉がありますが、これは精神的な弱気や落ち込みが

 病気を助長させるという意味だけではありません。この言葉にはもう一つの東洋医学

 の英知が含まれています。つまり、東洋医学の基本であるエネルギー(気)が、体の

 すみずみまで流れなければ病気になるという意味も含んでいるのです。ツボ療法で、

 エネルギー(気)を活性化し、経絡がほどよく循環してこそ健康につながります。

 

 【参考・引用文献等】

  〇東洋医学 経絡・ツボの教科書  天津中医薬大学客員教授・中医師・鍼灸師 兵頭 明

  〇14経 基本 人体ツボ経絡図  天津鍼灸専門学校 市川 敏夫

  〇最新版 よくわかるツボ健康百科  明治国際医療大学名誉教授 医学博士 尾崎 昭弘

  〇見て簡単やって特効 ツボ健康法  医療ジャーナリスト 府川 憲明、鍼灸師 前田 均